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ふなむしのひとりごと(2024)


『港湾計画書を読み解く 名古屋港編』

■港湾計画書とは

港湾法第3条の3に「国際戦略港湾、国際拠点港湾又は重要港湾の港湾管理者は、港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全に関する政令で定める事項に関する計画(以下「港湾計画」という。)を定めなければならない」とあります。

各港の港湾計画は「港湾の能力とそれに対応する港湾施設の規模と配置、港湾環境の整備と保全等、その他基本的な事項を定めた港湾整備のマスタープラン」です。

2024年4月現在、国際戦略港湾(5港)、国際拠点港湾(18港)、重要港湾(102港)があり、日本のほとんどの港で港湾計画が策定されていると言えます。

港湾計画を読むと今後港がどう変わっていくのかが分かります。既に工事が始まっている事もあれば、未だ報道でも見聞きしていない計画も書かれているで、港の将来像を知るのには非常に役立つ資料です。港湾計画の内容を理解するためには港湾計画書と港湾計画図を読み解く必要があります。

■名古屋港の港湾計画

名古屋港の港湾計画について読み解いてみます。と言っても計画全体では無くフェリーや旅客船(クルーズ客船)に関係する部分だけです。

名古屋港港湾計画書
名古屋港港湾計画図

◆大型化するクルーズ客船

クルーズ客船が着岸するガーデンふ頭は名古屋港を東西に貫く名港トリトン(西大橋、中央大橋、東大橋)の北側にあり、ガーデンふ頭に着岸する船は名港中央大橋の下を通る必要があります。名港中央大橋の桁下は55mです。桁下クリアランスが2023年4月に4mから2.5mに緩和されて52.5mの高さの船まで通過できるようになりましたが、海面からの高さが54mのダイヤモンドプリンセスは通過できません。

ダイヤモンドプリンセスやそれより大型のクルーズ客船は金城ふ頭の南西側の岸壁に着岸していますが、本来この岸壁は輸出用自動車を積み込むための岸壁のため、乗船客が利用するためのターミナルビルは無いし、クルーズ客船が着岸している間は自動車運搬船が着岸・荷役できない問題があります。

◆金城ふ頭再編事業

港湾計画図を見ると金城ふ頭にオレンジ色の線が多く描かれていて港湾計画があることが分かります。金城ふ頭では金城ふ頭再編事業が進行中で金城ふ頭の第1突堤と第2突堤の間を埋め立てる大きな工事も含まれています。

金城ふ頭再編事業の主目的は名古屋港内に分散する自動車運搬船の岸壁とモータープールを金城ふ頭の南西側に集約すると共に、大型船が着岸できるように海底を浚渫して水深を深くすることです。現在は自動車運搬船の岸壁とモータープールが分散しているので、自動車運搬船を港内シフト(岸壁間の移動)させたり、輸送車両をモータープール間で移動させたりしていますが、再編事業完了後は無駄な移動がなくなります。また大型船で輸送することにより輸送車両1台当たりの輸送コストが削減できます。

埋立工事や浚渫工事は2024年9月時点で順調に進んでいる様です。

◆新クルーズターミナルの建設

自動車運搬船の岸壁の再編により空いた岸壁には新クルーズターミナルが建設される計画です。場所はリニア・鉄道館の横です。あおなみ線の金城ふ頭駅が隣接しているので交通の便が良い場所です。

新クルーズターミナルは名港中央大橋の南側にあるので橋の下を通る事無く着岸できます。さらに海底を浚渫するので喫水の深い船や背の高い船も着岸できます。新クルーズターミナルは岸壁長430m、水深11.5mなので、現在世界最大のアイコン・オブ・ザ・シーズ(全長365m、喫水9.25m)でも着岸可能です。

◆あおなみ線経由で新幹線へ

あおなみ線はJRの貨物線を利用して2004年に開通した旅客鉄道です。あおなみ線は名古屋駅と金城ふ頭駅を結んでいて名古屋駅は新幹線のホームの隣にあるので新幹線への乗換えが便利です。

名古屋は観光ポイントが少ない都市と言われていますが、あおなみ線と新幹線を使えば一気に京都まで観光エリアが広がります。寄港地観光が魅力的にあるとクルーズ船の寄港数増大に繋がります。あおなみ線にJR特急車両を利用した乗船客専用列車を走らせれば高級船の船客にも満足してもらえると思います。

◆現名古屋港フェリーターミナルの問題点

現在のフェリーターミナルの南側には名港西大橋があって太平洋フェリーの「きそ」や「いしかり」はこの橋の下を通ってフェリーターミナルに着岸します。名港西大橋は1985年に完成して名港トリトン(西大橋、中央大橋、東大橋)の中では一番早くに完成した橋です。名港西大橋の桁下は38mで初代「いしかり」(高さ36m)が通ることを考慮して桁下の高さを決めたと言われています。

最近建造された他社のフェリーは排気ガス規制への対応として煙突内にスクラバー(排ガス処理装置)を搭載しているので煙突が高くなっています。太平洋フェリーが新造船を建造する場合には名港西大橋の高さ制限は大きな制約になります。

現在のフェリーターミナルは水深についても問題があります。名古屋港周辺には大きな河川があって河川から流れ込む土砂により水深が浅くなるため、名古屋港では浚渫作業が欠かせません。特にフェリーターミナルはその横にある庄内川と日光川から土砂が流れ込むので大型船が着岸する岸壁としては適切とは言えません。(太平洋フェリーの向かい側の岸壁でしばしば見かける清龍丸が名古屋港の浚渫に活躍しています)

◆新フェリーターミナルの建設

現在のフェリーターミナルの問題を解決するためにはフェリーターミナルの移転が必要です。港湾計画書によれば新フェリーターミナルは新クルーズターミナルの横に建設されます。
あおなみ線の金城ふ頭駅に隣接しているのでフェリーの利用者にとって利点です。

新フェリーターミナルも名港中央大橋の南側に造られるので橋の下を通らず着岸できます。太平洋フェリーの新造船は高さの制約を受けること無く名古屋~北海道を結ぶフェリーとして最適な船にできます。
新フェリーターミナルと新クルーズターミナルが完成すると、クルーズ船と太平洋フェリーが並ぶ光景が見られます。

現フェリーターミナル付近は金城ふ頭の埋め立てで廃止される小型船用の船だまりに変更する計画です。


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