第14回クルーズ客船&フェリー研究会
2010年2月27日


第14回クルーズ客船&フェリー研究会
主催:大阪府立大学大学院海洋システム工学分野
日時:2010年2月27日(土)
場所:大阪府立大学中百舌鳥キャンパス

「クルーズ客船&フェリー研究会」および「クルーズ&フェリー学会」の他の年の講演会概要



8年振りにクルーズ客船&フェリー研究会が開催されました。今回は、第1回次世代船舶シンポジウム(2010/2/26〜27)の「客船の部」を兼ねた開催です。
船会社、造船会社、港湾管理者、大学研究者、学生、旅行会社、利用者など、100名弱の方が参加しました。

本会は、第1回次世代船舶シンポジウム「客船の部」を兼ねています。


■開会挨拶 9:30
◇次世代客船 9:40〜12:10
■次世代フェリー(欧州の動向に見る)

池田良穂
(大阪府立大学)
■次世代フェリー(オースタルシップの次世代型新造高速トリマランフェリー、
LNG燃料、環境指標EDDIについて)

オースタルシップス
■フェリーと安全性
「ありあけ」横転事故の原因を考える

梅田直哉
(大阪大学)
■危険な横揺れを判定するオンボードシステムの提案

二瓶泰範、池田良穂
(大阪府立大学)
■次世代クルーズ客船
世界最大 22万トン 「オアシス・オブ・ザ・シーズ」

池田良穂
(大阪府立大学)
ミキツーリスト
◇日本クルーズ&フェリー学会設立準備会 13:30〜16:30
■世界のクルーズ産業の現状
東アジアのクルーズ産業の現状、日本のクルーズ産業の現状

池田良穂
(大阪府立大学)
■新生「にっぽん丸」について

小林求常務
(商船三井客船)
■高速道路無料化とフェリー

山本哲也執行役員
(名門大洋フェリー)
■大阪港のクルーズ誘致活動

和泉暁雄課長代理
(大阪市港湾局)
■クルーズ客船誘致の経済波及効果

田口 順
(大阪府立大学経済学部)


講演の一部について概要を紹介します。

■次世代フェリー(欧州の動向に見る)
池田良穂(大阪府立大学)

バルト海周辺の国がEUに加盟後は、クルーズフェリー内での免税品の販売ができなくなり、バルト海のクルーズフェリーは縮小されるものと予想されていたが健在である。 
バルト海に浮かぶEU外の島(自治領)に途中立ち寄ることにより免税品を扱う条件をクリアしている船が多い。EU外のロシアへ足を伸ばす計画を持っている船会社もあるが、高速化が必要になる。また、物価の安い国に行ってそこで買い物するような利用方法も出てきている。

ドーバー海峡は、トンネルの完成にも関わらずフェリーの利用が多い。特に観光バスの利用が多いのが特徴である。日本のフェリーが参考にできる部分もあると思われる。

かつて日本の中古フェリーが多数活躍していたギリシャ周辺は、新造の高速フェリーに置き換わりつつあり、多くの中古フェリーが係船状態になっている。

■フェリーと安全性
「ありあけ」横転事故の原因を考える
梅田直哉(大阪大学)

「ありあけ」の横転事故の原因として、斜め追波の「波の山」での復元力喪失が考えられる。「ありあけ」のような比較的高速(フルード数0.3)の船で起き易い現象で、高速化が進む今日、他のフェリーでも危険性がある。

追波中での横揺れの危険性は前々から指摘されている事で、2012年にはIMOから設計基準が出される。また、IMOから既出の「追波中操船ガイダンス」を船員が熟知して、危険を避ける操船をする事が必要である。

(あんなに簡単に横転してしまうとは。日本のフェリーで起こるとは思ってもみなかった。不安を払拭できるような再発防止の動きを急いでもらいたい。:ふなむし)

■次世代クルーズ客船
世界最大22万トン「オアシス・オブ・ザ・シーズ」
池田良穂(大阪府立大学)、ミキツーリスト

全長360m、全幅60m、総トン数22万トンのクルーズ客船「オアシス・オブ・ザ・シーズ」が昨年末に就航した。RCI社の経営理念「イノベーションこそがRCIの遺伝子」を示す客船である。

「オアシス・オブ・ザ・シーズ」の大きな特色は、船の中央部の緑あふれる吹き抜け「セントラル・パーク」で2人の専任の庭師が緑の世話をしている。 

船の大型化により、レストラン、ショーシアター、ラウンジ、プールなどが多種多様になり、幅広い年齢層に受け入れられる設備を持っている。乗船客への調査では、同じRCIの船でも大型船の方が乗客の満足度が高い。

キャビンも多様になり、140uのロフト付きキャビンも登場したが、特記すべきは家族用の多人数定員のキャビンが多く設置されたことである。クルーズの基本が夫婦等のカップルから、次第に家族連れに変わりつつあるのに対応して、最近のクルーズ船は「三世代船」と呼ばれるようになってきた。

レストランが複数になり選択肢が増えたが、朝食、昼食時に各レストランの空き状況が一目で分かる便利機能がある。

安全管理面では、ブリッジの一画に安全のためのコントロールルームが設置され、万一の事態の際に瞬時に対策が立てられるように情報を集中化している。火災、浸水などの事故だけでなく、乗客・乗員の乗下船、避難訓練への参加者(不参加者)がリアルタイムに表示できる。

(過去の研究会では、”船の大型化によるコスト削減は限界に近くなってきた”との発表があった。しかしそれ以降も大型化を続き、オアシスは22万トンの巨大船になった。昔からの船旅ファンの中には大型船を毛嫌いする人もいるが、大型船の魅力は大きい。大型化の流れは、コスト削減から乗船客の満足度向上に理由が変わっていているようだ。:ふなむし)


■新生「にっぽん丸」について
小林求常務(商船三井客船)

新生「にっぽん丸」が目指すのは、Small & Luxury。小型船であることの利点を活かしたい。

「にっぽん丸」は、乗客同士、乗客と乗組員の距離が近い。エンターテイメントを間近に見られるのも魅力である。大型船では寄港できない港にも入港でき、バラエティに富んだコースが組める。

今回の改装では、上級キャビンの増室、パブリックスペースの拡充を行ったが、救命ボートも入れ替えてキャビンからの視界を良くした。

「にっぽん丸」が ”大きく変わった” 事の象徴として、船体の塗装を変更した。海上では時間や天候で見え方が異なるので、何度もテストして色を決定した。

上質なクルーズを目指して、拘りをもった食事、エンターテイメントを提供する。ハードの改装と並行して、ソフト面の改良も進めている。 

(ハード面はようやくライバルに追いついた感じがする。如何に「にっぽん丸」らしさを出すのか期待する。 :ふなむし)

■クルーズ客船誘致の経済波及効果
田口 順(大阪府立大学経済学部)

定期クルーズ客船が来訪する沖縄、長崎、博多の各港では、中国人旅行客の旺盛な買い物需要により経済効果を上げていて、他港も客船誘致に興味を示している。

客船の誘致活動、優遇処置を実施する根拠として、誘致による経済波及効果を算出して、費用対効果を明確にする必要がある。

経済波及効果は、@直接的効果(入港に関わる費用、給水油、食料、船客・船員の観光・買物・消費)、AGDP(域内総生産)、B雇用、C税収 からなる。

調査結果から、
ワールドクルーズなど不定期客船寄港の経済波及効果は非常に小さく、誘致に掛けた費用を回収できない危険性が高い。
中国起点の定期クルーズの寄港地としての誘致や、日本起点の定期クルーズの誘致は、経済波及効果が大きく、今後発展の余地がある。

(従来の客船誘致は、港の賑わいなどのイメージ的効果や市民への海洋思想普及だったが、クルーズの定着化が算盤勘定ができるほどに現実味を帯びてきたことが嬉しい。中国人船客の誘致に留まらず、日本起点の定期クルーズの定着に繋がってほしい。 :ふなむし)

■大阪港のクルーズ誘致活動
和泉暁雄課長代理(大阪市港湾局)

大阪にはUSJなどの観光客を引き付ける施設があり、京都や奈良へも近く、クルーズ客船を誘致できるポイントがある。
大阪の食文化もアピールポイントの一つにしたい。

大阪港へ入港する乗客のために様々なアイデアを検討している。
@大阪港からそのまま乗船でき、大阪の中心部を回れるリバークルーズ。河川沿いのホテルへのアクセスとしても利用できる。
A大型電器店などの商業施設に、開店前に入店してゆっくり買物できる特別プラン。


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