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ふなむしのひとりごと(2024)


『船の国籍と船籍港』

■旗国とは

国際法で船舶は必ず国籍(船籍)を持つことを義務付けられており、特定の港(市町村)に船籍を登録しています。
船舶は国籍証書を船内に掲示し、船尾(マストの場合もある)に所属国の国旗を掲げる必要があります。船が所属する国を「旗国」と呼んでいます。

以前は「旗国」の言葉を見聞きすることはありませんでしたが、新型コロナの船内感染が発生したダイヤモンドプリンセスが横浜港に着岸していた時にはニュースに何度も出てきました。

ダイヤモンドプリンセスが係る国籍は複雑です
・船の国籍(船籍):イギリス(ロンドン)
・運航会社の所在地:アメリカ
・船長の国籍:イタリア
・乗員の国籍:多国籍
・乗船客の国籍:多国籍
・停泊場所:日本(横浜)

国連海洋法条約では、船舶が公海を航行中は旗国の管轄権に服する(旗国主義)という大原則があります。一方、東京湾や瀬戸内海などの領土の内側にある「内水」では、日本は外国船に対して領土内と同程度の排他的な権利を行使することができます。

日本の領海内(沿岸12海里内:約22.2km)は日本の主権が及ぶ範囲ですが、外国船に対しては陸上と同じ管轄権はなく、犯罪の結果が日本に及ぶ場合の刑事裁判権や、領海通航中に発生した債務や責任に関する民事裁判権などに限られる制限があったり、無害通航権(沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件として、沿岸国に対して事前通告をすることなく沿岸国の領海を外国船舶が通航すること)を認めるなど、日本の管轄権は限定されます。

ダイヤモンドプリンセスが横浜港に寄港を求めた時、日本はダイヤプリンセスの寄港を認め、乗員・乗客の検査や船内生活の支援に取り組みましたが、海外のメディアの一部からは「停泊中の船内の感染防止対策が不十分」「もっと早く乗船客を下船させるべき」などの日本の対応内容に対する批判がありました。
それに対して「本来旗国であるイギリスが責任を持ってやるべきだった」「日本は入国、着岸を拒否することもできた」という反論が出たのは、上記の管轄関係からです。

■日本船舶とは

クルーズ客船に乗船中に何か問題があっても日本船であったら管轄権が統一されていて安心できそうです。そこで日本船の条件は纏めてみました。

船舶法第1条に日本船舶の条件が記されています。
1. 日本の官庁、公署が所有する船舶
2. 日本国民が所有する船舶
3. 日本の会社が所有する船舶
但し、日本の会社については代表者や役員の国籍について条件があります。

同法第2条と第3条には日本船舶のみに許されることが記されています
第2条 日本の国旗を掲揚できるのは日本船舶のみ
第3条 日本の港の間で貨物や旅客の運送が可能なのは日本船舶のみ(外国船に対するカボタージュ規制)

第4条 日本船舶の所有者は日本に船籍港を定める
第4条を見ると「船籍港が日本である船」が「日本の船」であると言えます。

■船籍港に関するルール

船舶法施行細則第44条に「船首両舷の外部に船名、船尾外部の見易き場所に船名及船籍港を記すこと」とされています。外国船でも同様に船尾に船籍港が表記されています。

飛鳥Ⅱ(船籍:横浜) ダイヤモンドプリンセス(船籍:ロンドン)

厳密に言うと、船籍港は「港の名前」ではなく「市町村の名前」です。

船舶法施行細則第3条に船籍港の決め方が記されています。
1.船籍港は市町村の名称に依る。但し都の区内の場合は都の名称にする
2.船籍港と成りえる市町村は水面に接したるものに限る
3.船籍港は当該船舶所有者の住所に定める

漁船や比較的小型の船では船尾に「XXX市」と書かれている船もよく見かけます。

まりーんふらわあ2(船籍:淡路市)
(ジェノバライン:岩屋~明石)

日本の港は横浜港、神戸港のように港の名前と市の名前が一致している港が多いですが、そうでない港もあります。博多港は福岡市、清水港は静岡市にある港です。
所有者(会社)が地元の人(会社)で博多港を本拠地とする船であっても船籍港は福岡(市)です。同様に清水港を本拠地とする船であっても船籍港は静岡(市)です。

清水港の場合はちょっと複雑です。清水市は2003年4月1日に静岡市と合壁して(新)静岡市になっています。その際船籍港が清水から静岡に変わった船は多くあったものと思います。住所は静岡市清水区となり清水の名前が残っても、船籍港からは清水の名前が消え去った事になります。

ベイプロムナード(船籍:静岡市)
(清水港遊覧船)

きんいん3(船籍:福岡市)
(福岡市営渡船:博多~志賀島)

◆日本の客船でも公海上ならカジノの営業は可能?

答えはNOです。日本領海(沿岸12海里内:約22.2km)を出れば国内で禁止されていることが解禁されると思っている方がいるかもしれませんが、大間違いです。

刑法第1条に刑法の適用範囲について記されています。
第1条第1項 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
同条第2項 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

カジノの営業や賭博行為は「第23章 賭博及び富くじに関する罪」として刑法第185条~第187条で禁止されている行為です。
日本の内水(東京湾や瀬戸内海など)では日本船も外国船もカジノは営業できないし(刑法第1条第1項)、日本船は世界の何処に行ってもカジノの営業はできません(刑法第1条第2項)。
勿論、違法薬物の使用についても同様です。

外国船が日本の領海を航行する場合にカジノの営業を中止しています。これには「領海及び接続水域に関する条約」が関係しますが、この条約の第3章無害通航権を読むと、内水を除く日本の領海(東京湾や瀬戸内海など以外)では外国船のカジノの営業は問題ないのではないかと読めます。どうなんでしょうか? 法律の専門家でない私には正確な判断ができません。

◆日本に寄港するクルーズ客船の船籍

現在(2024/10)日本の外航クルーズ客船は飛鳥Ⅱとにっぽん丸の2隻です。日本近海を航行しているクルーズ客船のほとんどは外国船です。
※日本船籍のクルーズ船の建造計画が進んでいるので数年後には日本船のクルーズ船が増える見込みです

2024年に神戸港に入港(含む予定)したクルーズ客船の船籍国を調べてみました。船の総数は30隻で船籍国は以下の通りです。 約2/3が便宜置籍船です。

船籍国 便宜
置籍
隻数
バハマ 7
マーシャル諸島 4
マルタ 3
イタリア 2
オランダ 2
日本 2
パナマ 2
バミューダ 2
フランス 2
オーストラリア 1
キプロス 1
中国 1
ノルウェー 1

現在、世界を航行する船の多くが便宜置籍船と言われています。便宜置籍船は実質的な所有主の国ではなく便宜的に別の国に国籍(船籍)を置いた船です。
便宜置籍船のメリットとして、(1)税金等が安い、(2)配乗する船員の国籍制限が緩い、(3)船舶の設備要件が緩い 等があります。

(1)税金面については、実質的に日本の船会社が所有する便宜置籍船の場合、現在では日本の合算税制制度により現地会社の利益は日本の本社でも連結して課税されるので、メリットは少なくなっています。

◆外国船による日本発着クルーズ

外国船の日本発着クルーズに乗船する場合に、その船の国籍(船籍)を意識している人は多くないかもしれません。

パンフレットに「イタリア」の文字が沢山書かれていても、その船の所有会社はスイスの会社で、船籍はマルタ共和国(便宜置籍先)かもしれません。日本近海を航行中の船内で感染問題が発生した場合、ダイヤモンドプリンセスの時と同じ様に日本政府が日本の港への入港を認めるとは限りません。また「旗国が責任を持って対応すべき」と言う声があっても、便宜的に船籍が置かれただけの旗国マルタが責任ある対応をしてくれるとも限りません。

パンフレットに「ノルウェー」の文字が沢山書かれていても、船の船籍は中国かもしれません。公海上では旗国が管轄権を持ちます。たとえ日本発着クルーズで乗船客全員が日本人でも公海上では日本に管轄権はないし、日本の領海内でも日本の管轄権は限定されるということを認識して乗船する必要があります。


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