ふなむしのページ
本日(5/16)時点では世界のほぼ全てのクルーズ船が運航を停止していますが、運航再開予定のニュースをちらほら見かけるようになってきました。
各船会社の対策は十分なのでしょうか? ダイヤモンドプリンセスの様な事はもう発生しないのでしょうか?
5/3にNHK「調査報告 クルーズ船~未知のウイルス 闘いのカギ~」を観ました。
ダイヤモンドプリンセスの感染問題を扱ったTV番組の中でも、詳細な取材と分析ができた番組だったと思います。
番組から、感染拡大を生じさせた問題点を以下に通り理解しました。
①クルーズ船の船内生活が感染症に対して高リスク
②感染者発覚後も通常通りにクルーズを継続
③乗組員の感染
④横浜入港後の検疫、隔離の問題点
①クルーズ船の船内生活が感染症に対して高リスク
クルーズ船は世の中で言われている3密が集まった空間です。リスクが高いとされる劇場、カジノ、ライブ、バー、カラオケ、フィットネス、ビュッフェレストラン全て揃っています。
ビュッフェレストランはほとんどのクルーズ船に備わった施設です。かつては好きな料理を告げてスタッフに取り分けてもらうシステムが多かった様に思いますが、今では自分で共用のトングを使って取り分けるのが一般的です。
メインダイニングでは、夕食は指定席の船もありますが朝・昼は自由席がほとんどです。面識の無い人と同席することもあります。それがクルーズの一つの楽しみでもあります。しかし、その中に感染者がいた場合、濃厚接触者を追う事は難しいです。
ダンス教室では面識のない方と組むこともあり、かなりの濃厚接触です。組んだ人全員の部屋番号か名前を憶えていないと、感染経路を追えません。
②感染者発覚後も通常通りにクルーズを継続
ダイヤモンドプリンセスは横浜に入港して検疫を開始した夜も通常通りのイベントを継続していました。
TVのワイドショーで毎日のように中国武漢市の酷い状況な伝えられ、「外国籍のダイヤモンドプリンセスの入港は拒否すべき」との厳しい意見も聞こえていた状況なので、船内でのパティー開催は驚きの行動でした。
番組の中である乗組員が「クルーズ船はサービスを提供する対価として乗船料を貰っているのでサービスの中止はできなかった」と語っていました。新型コロナウイルスの恐ろしさがどれだけ乗組員に伝わっていたのか疑問です。
③乗組員の感染
乗客の感染者が減少傾向にある中、乗組員の感染者が増加した状況が示されていました。ダイヤモンドプリンセスでは最初に乗客間で感染が広がった後に乗組員にも広がったものと思われます。クルーズ客船はレストランやバー、船室などで乗組員との接触が多いので、もし早い時期に乗組員に感染が広がっていたら、もっと深刻な状況になっていた恐れがあります。
クルーズ客船の乗組員のほとんどは相部屋なので、感染者が発生すると仲間への感染リスクは高くなります。
④横浜入港後の検疫、隔離の問題点
検疫や医療の専門領域の事であり、その体制・方法・優先順位について軽々しく批判できる立場ではないですが、乗客の立場として大きな心配事です。
無症状の感染判明者が既に下船し治療を開始しているにも関わらず、重い症状が出ているのに検査すらしてもらえず下船・治療が遅れ、因果関係は不明ながら結果として死亡に至った乗客が出たのは恐ろしい事例です。
持病の薬が手に入らないのも心配です。薬が飲めないという精神状態が余計に病状を悪化させてしまいそうです。乗船する際には、余分に薬を持ち込むことが必須です。
隔離中、乗船客に対してどれだけの情報提供がなされていたのかも気になること。自身の検査結果・船内の事・他の乗客の事・今後の計画・世の中の事。ダイヤモンドプリンセスでは日本のTV放送が受信できないようです。この機会に、日本発着のクルーズ船は日本語放送の受信(地上波、BS、NHK海外向け放送)を充実させてほしいです。海外から帰国する際、飛行機の機内では前日のNHKニュースが流れたりしています。ダイヤモンドプリンセスの船内TVで、せめてこれ位の事はできなかったのでしょうか。
「クルーズ客船は動くリゾートホテルなので隔離場所としても優れている」との意見があります。しかし、それは船内の施設が全て機能していて自由に利用できるのが前提の話です。クルーズ客船のキャビンは陸上のホテルより狭いです。おまけに陸上のホテルでは認められない窓無しのキャビンもあります。感染の恐怖がある、十分な情報が得られない状況の中、インサイドの部屋に留め置かれることは耐え難い苦痛です。
今回のNHKの番組の内容は主に日本の関係者への取材から成り立っており、船長をはじめとする船側からの情報が少ない。早いタイミングに、船(乗組員)、厚生労働省(政府)、自治体、乗客などすべての関係者への取材を行って、今回のダイヤモンドプリンセスで起こった感染症の全容が分かる番組の製作を期待します。
(2020/5/29)
5/29に海事プレス社のWEB CRUISEに、ガイドライン作成に関する日本外航客船協会会長のコメントが掲載されました。坂本会長は郵船クルーズの代表取締役社長でもあります。
https://www.cruise-mag.com/news.php?obj=20200529_03
このコメントの中に「飛鳥Ⅱの場合は872名のお客さまがご乗船いただける船ですが、定員いっぱいご乗船いただくのは難しいかもしれません。食事もそうですし、劇場なども間隔をとるとなると、受け入れられる人数に制約が出てくるということが考えられます。ガイドラインをきちっと守っていくには、今までやってきたクルーズを踏襲するのは難しいでしょう。」とあります。
先日飛鳥Ⅱの2020年後半のクルーズが発表されて、6/12から発売です。果たして何名定員で販売されるのでしょうか?パンフレットには感染症対策について記載されておらず、飛鳥クルーズホームページへのリンクが貼られているだけです。ホームページには感染症対策に伴うサービス内容制限(イベント、食事提供方法などの中止・変更)については記されていませんし、将来実施するかもしれないという断り書きもありません。
(2020/6/10)
6/3に日本海事協会が日本外航客船協会と共同で「クルーズ船におけるバイオセーフティマネジメントシステム確立に向けた検討を開始し、本年7月までに本規格の策定を目指す」と発表しました。クルーズ船会社の感染対策に対して日本海事協会がこの規格に基づき”お墨付き”を与えることになります。今後のクルーズの在り方に大きな影響を与える規格になるものと思います。
郵船クルーズは6/12に予定されていた飛鳥Ⅱの2020年後半のクルーズの販売開始が延期し、第三者機関(おそらく日本海事協会のこと)の認証取得後に販売開始すると発表しました。また、今後のクルーズでの食事提供方法の変更やエンターテイメントの一部中止や運営変更の可能性について発表しています。
https://www.asukacruise.co.jp/news/43262/
https://www.asukacruise.co.jp/news/43386/
(2020/9/26)
9/18 国土交通省は日本における外航クルーズ再開の条件を発表しました。
国土交通省「クルーズの安全・安心の確保に係る検討・中間とりまとめ」(9/18)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji02_hh_000250.html
(1)外航クルーズ船各社は日本外航客船協会の「外航クルーズ船事業者の新型コロナウィルス感染予防対策ガイドライン(9/18)」に沿って、自社の運航船舶用の新型コロナウイルス感染症の予防・拡大防止マニュアルを作成すること。
(2)その取組状況について、公平な第三者機関である日本海事協会の審査、認証を受けること。
日本海事協会は「飛鳥Ⅱの審査を実施し、外航クルーズ船として初めて認証(暫定証書)を交付した(9/19付)」と発表しました。
https://www.classnk.or.jp/hp/ja/hp_news.aspx?id=5362&type=press_release&layout=1
一方、郵船クルーズは今回認証を受けた「飛鳥Ⅱ 新型コロナウイルス感染症対策」を公表しました。
https://www.asukacruise.co.jp/coronavirus_information/
飛鳥Ⅱの対策内容は、旅客定員を大幅に削減し、乗客に対して事前のPCR検査を強制する内容で、そのベースになる日本外航客船協会のガイドラインより遥かに厳しいものです。他の日本船の対策にも影響を及ぼすものと思います。
(2020/10/23)
外航クルーズ船事業者の新型コロナウィルス感染予防対策ガイドラインが改定されました。
・外航旅客船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン 第二版(2020/5/14)
・外航クルーズ船事業者の新型コロナウィルス感染予防対策ガイドライン 第二版(2020/10/23)
(2021/3/27)
飛鳥Ⅱとにっぽん丸は2020/11/2から、ぱしふぃっくびいなすは2020/12/5から運航を再開しましたが、緊急事態宣言の発出や乗組員に感染者が出たりして、運航再開/停止を繰り返しています。最低催行人員に達せず催行中止になったクルーズもありました。
2020/9/18の国土交通省「クルーズの安全・安心の確保に係る検討・中間とりまとめ」によれば、
第一段階:国内のショートクルーズをトライアルとして実施
第二段階:本格的に国内クルーズを実施
第三段階:国際クルーズについてガイドラインの検討等所要の準備を進める
となっていますが、9/18以降何らの発表もなく、現時点が第一段階なのか第二段階なのか分かりません。
国際クルーズ再開に向けては、検討に着手しているのか、未だ何もしていないのか一切情報が出ていません。
2021/3/2に海外のクルーズ船運航会社9社が、日本でのクルーズ再開を目指して協議会を設立したとのニュースがありました。
しかし、日本や周辺諸国では観光客の入国制限や入国後の行動制限が継続されており、出入国が正常化しないと外航クルーズの再開はあり得ません。
さらに、クルーズの再開には寄港地自治体から受入承認が必須ですが、「ダイヤモンド・プリンセス」の悪いイメージが残っている外国クルーズ船の受入はハードルが高いです。飛行機での海外からの一般旅行客の受入が始まったとしても、外国クルーズ船の受入は一番最後になる恐れがあります。
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