日本クルーズ&フェリー学会の総会と講演会(後援:横浜市港湾局)が横浜みなと博物館 日本丸訓練センター(横浜 桜木町)で開催され153名の参加者がありました。講演会の後は、大さん橋からロイヤルウィングに乗船し懇親会がありました。
横浜みなと博物館 日本丸訓練センター |
講演内容(要約) |
①クルーズ&フェリーの最新トレンド 池田 良穂 (日本クルーズ&フェリー学会 事務局長) |
■2016世界のクルーズ人口は2420万人で前年比+4.3%。中国を中心としたアジアが牽引した。 アジアのマーケットシェア12.4%(前年比+46%) ※全世界を100%とした場合。 中国のクルーズ人口比0.15%(前年比+50%) ※中国の人口を100%とした場合。 ■クルーズ運航会社の経営は2016年急激に改善した。 大手3社の利益率は13%~17%(前年は10%を切っていた) ■アジアにおけるクルーズ会社の経済効果(乗船客の消費は含まれない)は1100億円(造船・修繕が339億円) 食料品の現地調達が増加。 ■中国南部クルーズマーケットの急増により沖縄のクルーズ客船寄港数は急増 沖縄の寄港数2015年219回、2016年387回、2017年557回見込み。 特に宮古島の寄港数増が顕著。2015年13回、2016年86回、2017年140回見込み。 宮古島は地元の受入れが積極的で、乗船客の満足度が高い。 ■世界の航洋クルーズ客船の新造発注ブーム到来 発注の半数は15万総トン以上のメガシップ。発注残は90隻 ■世界各地のリバークルーズも急拡大2016年は30隻竣工、26隻発注。 Viking River Cruisesが世界展開し、この5年に52隻を新造。 ■欧州フェリー会社の経営は改善傾向。新造フェリーは小型化傾向。高速フェリーの復活の兆し。 ■日本の長距離フェリーは、トラックが絶好調、乗用車・旅客も堅調。 モーダルシフトの追い風、トラックドライバーの不足。外国人観光客の利用。 |
②客船の安全と国際条約 石原 彰 (国土交通省海事局 船舶安全基準室 室長) |
■客船の安全に関する国際条約SOLAS(international convension for the Safety Of Life At
Sea)は、 タイタニック事故を契機に1914年に制定。 ■IMO(convension in International Maritime Organization)が1958年に設立され、SOLASを維持・改訂 ■最新のSOLASは1974年採択、1980年発効。 37年間に157回改正され、締結国は163ヵ国(全船腹量の99.14%) ■大規模事故の度に再発防止を織り込み ハード要件の強化(バウドアからの浸水=>ドアの開閉表示装置、漏水検知装置の設置) ソフト要件の導入(事故の80%はヒューマンエラー) ■客船の大型化への対応。安全寄港(safe return to port)の考えを取入れ。 大勢の乗客、乗員が救命ボートで避難するより、本船に留まった方が安全なケースが多い。 その為の対策(損傷時復原性基準の見直しなど)を織り込み。 |
③国土交通省におけるクルーズ振興の取り組みについて 石原 洋 (国土交通省港湾局 クルーズ振興室 室長) |
■2016年の訪日クルーズ旅客数は199.2万人(前年比+78%) 寄港回数は2017回(前年比+30%) 外国船1443回、日本船574回。2017年は2700回の見込み。 ■明日の日本を支える観光ビジョン(2016/3/30) 目標外国人旅行者数 2020年4,000万人、2030年6,000万人 (2015年実績1974万人) 目標訪日クルーズ旅客 2020年500万人 ■クルーズ船の受入環境の緊急整備。既存の貨物船用バースをクルーズ船用に改良。 長い船長=>桟橋の部分延長、ドルフィン桟橋の設置、風圧が大きい=>防舷材、係船柱の整備 ■クルーズ旅客の利便性向上。秋田港クルーズ列車のトライアル運航。 ■クルーズ商談会(船社<->港湾管理者)の開催。クルーズ船社への寄港地情報の一元的発信 ■国際旅客船拠点形成港湾協定制度を創設 官民連携:公共(港湾設備、岸壁の確保)、民間クルーズ船社(旅客ターミナルビル整備への投資) 利点:公共(将来需要の顕在化:途中で船社に逃げられない)、クルーズ船社(優先岸壁使用、長期的な配船計画) |
④日本外航客船協会の活動 クルーズ&フェリーのさらなる振興のために 山口 直彦 (日本外航客船協会 会長) |
■1990年にJOPA(日本外航客船協会)を設立。 ①安全運航・船舶保全への取組 ②規制緩和への取組 ③振興活動・広報活動への取組 ■クルーズアドバイザー制度創設(2003年)。消費者へのクルーズに関する説明不足改善が目的。 累計:クルーズマスター63名、クルーズコンサルタント6631名。 ■クルーズオブザイヤー表彰制度創設(2008年)。良質のクルーズ商品、サービスの奨励。 |
⑤横浜港と客船 志澤 政勝 (横浜みなと博物館 館長) |
■北米・ハワイ移民の送り出し港(明治30年代~大正) 北米への移民増加により船が大型化。ミネソタ(20,718総トン、ステアリッジ1,067人、1904年竣工) ■関東大震災発生時に被災市民救助(大正12年) エンプレス・オブ・オーストラリア3000人、アンドレ・ルボン2000人、三島丸4000人、ぱりい丸1800人、ろんどん丸2000人 ■観光船の来訪(明治末期~昭和初期)毎年2隻~6隻 ・明治43年最初の世界一周船寄港(クリーブランド(ハンブルグ・アメリカライン)16,960総トン、船客760人) ・2つの客船ターミナル完成。新港ふ頭(昭和2年)、大さん橋(昭和3年) 新港ふ頭の臨港カフェはホテルニューグランド経営。大さん橋のレストラン・バーは帝国ホテル経営。 ・サンフランシスコ客船出帆日に臨港列車運行(東京駅~横浜港駅) ・ホテル連絡バスの運行(ホテルニューグランド、帝国ホテル、富士屋ホテル) ■南米移民船再開(昭和27年~昭和48年) 最後の移民船はにっぽん丸(旧あるぜんちな丸)で、第一回世界一周クルーズでもあった(昭和48/2/14)。 ■定期航路客船の終焉 APL太平洋定期航路終了(昭和48年) |
⑥パネルディスカッション どうなる日本のクルーズマーケット!! 現代クルーズの進出とインターポーティング 池田 良穂:司会 糸川雄介 (コスタクルーズ日本支社 支社長) 堀川 悟 (カーニバルジャパン 社長) 赤井 伸郎 (大阪大学 教授) |
■日本発着クルーズの現状と今後の計画 ◇プリンセスクルーズ 乗船客数:2017年75,000人、2018年10万人超の計画 2018年はダイヤモンドプリンセスを通年配船し、供給を増やす。インターポーティングを採用し、6港に新たに寄港。 2020年は新造船を配船する予定。 ◇コスタクルーズ 2017年の日本人客の集客は50,000人の目標に対して30,000人の見込み。 日本海は北朝鮮問題の影響があった。台風の影響大きく、寄港地変更などで苦労した。 2018年は、夏場は日本海、春と秋は太平洋クルーズを実施する。 2019年は、日本海を増やしたい。 ■日本発着クルーズの問題、課題 ◇プリンセスクルーズ ・カボタージュでコースが制限される。休みが取り難い日本の事情がある。 クルーズに対する間違ったイメージ(料金が高い、揺れる)を、いち早く日本に配船して払拭したかった。 ◇コスタクルーズ ・多くの日本人にとってクルーズは自分が乗る対象ではなかったが、シニア層は身近に乗船経験者が増えて変わってきた。 ・クルーズ販売の流通を変えなければならない。現状の販売方法で低料金クルーズを販売すると、旅行会社は行き詰まる。 カジュアルクルーズの旅客に対して、プレミアムやラグジュアリと同じ客対応はできない。 アメリカの販売コスト:カジュアル3$、プレミアム30$、ラグジュアリ200~250$ ・各寄港地での1人当たりの乗船客の消費は船のクラスで変わるハズだが、各港が期待する額は同じ。 ■日本発着クルーズの海外での販売 ◇プリンセスクルーズ ・2015年から海外の販売チャネルで販売した。フライ&クルーズで外国人が乗船可能 2017年の全体75,000人。日本人44,000人、外国人31,000人 最近日本国内での旅行コストが上昇しており、フライ&クルーズは安価で効率よく日本を旅行できる手段となっている。 ◇コスタクルーズ ・カジュアル船は運航先で集客するのがビジネスモデルだった。日本85%、海外15% ・2017年からヨーロッパでも販売開始。 2017年10月のクルーズ 日本60%、ヨーロッパ20%、アジア20% ※沖縄、台湾クルーズ(8泊)と済州島クルーズ(6泊)の連続クルーズをヨーロッパで販売したが、台風の影響で 沖縄、台湾クルーズは行き先がウラジオストクに、済州島クルーズは東京に長期停泊後、日本国内クルーズになった。 14泊で寄港したのはウラジオストクと神戸、小松島のみだった。ヨーロッパ人の内30人はロシア人だった。 ■インターポーティングの利点、問題 ◇コスタクルーズ ・日本の大きな市場のどこからでも集客できる。 ・経営資源、営業資源が分散してしまう。 ・各港ごとの枠を守らずに販売すると、結果的に空室が多くなってしまう。 ・台風などで抜港すると(下船予定の旅客が居残っている)、部屋のやりくりがまるでパズルの様な状況になる。 ◇プリンセスクルーズ ・2018年からインターポーティングを採用。冬場のクルーズの安定的な集客を期待。 |
⑦横浜市の客船寄港推進の取組 小林 英二 (横浜市港湾局 みなと賑わい振興部 部長) |
■横浜港の課題 ・客船の岸壁予約の重複 ・ベイブリッジをくぐれない超大型客船の増加 ・乗客の市外(主に東京方面)への流出 ■横浜港の目指す姿 ・小型から超大型まであらゆるタイプの客船の受入 ・4隻以上の大型客船の同時受入 ・東日本、東北、北海道方面へのクルーズ展開の拠点化 ■新たな客船ターミナルの整備 ・新港ふ頭の新ターミナル整備(2019年春頃) ・大黒ふ頭南側自動車専用岸壁での超大型船受入(2019年春頃) ・将来の4拠点化(大さん橋、新港、山下、本牧A突堤) ・国際旅客船拠点形成港湾の指定による船社との連携(大さん橋:郵船クルーズ、新港ふ頭:カーニバル) |
⑧スマートクルーズアカデミーの挑戦 赤井 伸郎 (大阪大学 教授) |
■スマートクルーズアカデミーの目的 ・参加した学生の論理的思考向上 ・若者の視点、新たな視点での、クルーズマーケット、港湾、寄港地、観光への提言 ■これまでの研修クルーズとの違い これまでの青年の船(小型船の1隻チャーター、コスト高、多額の税金投入、継続性が保てない) スマートクルーズアカデミー(クルーズ船に一般の乗客と混乗、コスト低) ■2012年から開催し、参加累積398名 |
⑨C to Sea プロジェクト ~国民の皆様に海に目をむけてもらうための取組~ 小野 雄介 (国土交通省 海事局企画室 室長) |
■C to Sea プロジェクトとは 目的:一般市民、特に若者・子供に海への関心を促す 背景:若者の海離れ(海事人材の確保困難、海事産業の衰退) ■当面の取組 (1)気軽に乗れるショート&カジュアルクルーズの検討 ・日本ならではの船旅文化の浸透を目指す。 ・船舶を観光クルーズ、海洋教育、社会支援の各目的でシェアして費用を低減する検討。 ・船舶運行、企画、販売を各企業で分担して効率化を図る検討。 ・モニタリングクルーズの実施:小型フェリーを利用した瀬戸内海周遊デイクルーズ(高松~直島~豊島~小豆島~高松) (2)練習船(帆船)を活用した海洋教育・海洋思想普及 (3)「海の駅」と海洋レジャーの活性化 (4)海に関する情報の発信 |
⑩クルーズの歴史・余談 食堂の変遷 山田 廸生 (日本海事史学会 副会長) |
■ダイニングサロンは船尾に設置(グレートブリテン1843年建造、PMアメリカ1869年建造) 帆船時代の名残りで、食堂(ダイニングサロン)は船尾中心部に設置され、それを取り囲むように両舷に客室が配置された。 食堂(ダイニングサロン)は、食事時間以外にもラウンジとして利用された。 ■ダイニングサロンが船体中央部に移動(オーシャニック1870年建造) 振動防止のためスクリューから離れた船体中央部にダイニングサロンを設置した。 ■ハイレベルなレストランの設置(アメリカ1905年建造、インペラトール1913年建造) リッツ・カールトン・レストランが設置された。 ■現代クルーズ船には当たり前のビュッフェレストランの歴史は浅い ロッテルダム(5代目)のリドカフェをビュッフェ式リドレストランに改装(1969年) ビュッフェレストランを設置した新造船はプリンセンダム(1973年建造)が最初。 ■ビュッフェレストランの問題点 ・海が荒れて、船が揺れると食事がとれない。特に高齢者には大問題。 ・衛生面の対応がどこまでできるか? |
⑪12,000総トン型カーフェリー覚書 渡辺 孝則 (元 三菱重工) |
大阪~志布志航路の「さんふうらわ さつま/きりしま」が2018年3月と6月の新造船にリプレイスされる今、 現行船について顧みた。 ■船の設計の3要素 ・安定性(高さ、幅) ・強さ ・推進性能 ■大型フェリーの船型の変化 ・第一期(フェリー阪九、ふえにっくす、さんふらわあ) 1層のトラック甲板、3~4層の居住区、または2層のトラック甲板、2層の居住区。船幅22m前後 ・第二期(へるめす、いしかり、おーしゃんのーす) 2層のトラック甲板、3~4層の居住区。船幅27m 第一期から背の高さ、重心高さが大きく上昇し、その為船幅を広げた ・第三期(さんふらわあ ごーるど、フェリーきたきゅうしゅうⅡ、いずみ) 第二期を基本にしながら多様な技術的特長を持つ。大幅な省エネ化、トラック甲板の部分的3段化。 ■現行さんふうらわ さつま/きりしまの設計 ・第二期型 2層のトラック甲板、4層の居住区を持つ。 ・トラック搭載能力的には全幅24mで事足りたが、スタビリティの観点で全幅25.5mにした。 全幅を広げることにより、推進性能も向上した。 ・大型フェリーの設計では、エレベータと主階段の配置が重要となる。 車両甲板での操車障害にならず、且つ乗船客の動線に配慮してレイアウトした。 |
⑫大型フェリーへのハイブリッドCRP推進システムの適用 上野 周作 (JMU基本計画部 総括スタッフ) |
■大洗~苫小牧航路の「さんふらわあ ふらの/さっぽろ」にハイブリッドCRP推進システムを適用した。 ・2機1軸の二重反転プロペラ。前後のプロペラを別々の主機で駆動。負荷が高い海象では電動機で補助。 ・入港時には電動駆動に切り替え。主機はスラスター用の発電機として稼働。 ・横移動は強力なスターンスラスターで対応。 ・効果:燃費の大幅改善(20%) ・冗長性と信頼性確保 ・航行中の燃費向上と出入港時の操船性を両立 |
講演会が閉幕して会場を出ると、日本丸が綺麗にライトアップされていました |
大さん橋に移動し、ロイヤルウィング船上での懇親会に参加しました。
横浜開港記念会館 |