「ふあんねる」船キチ野郎集合

小島公平


 「ふあんねる」は英文字のFUNNEL、汽船の煙突のことで、これはひらがな文字を尊重する名古屋的表現である。
 「おでん、うどん、きしめん、いりゃあせ、あのなも」のたぐいと分類し、言わば名古屋弁と解したらいいだろう。「ふあんねる」は外洋航路客船や、貸物船(フレーター)や、国内フェリーに乗ることを最高の楽しみとしている船旅グループ名であり、また同人誌の表題名でもある。その歴史は古く、発刊もあわてず、急がず忘れた頃に日の目を見ている。すでに4号、気の長い話だが、それが2年も間を置くことだってある。自由気まま、只今5号発刊も間近い。
 当初は、メンバーの乗船記録で、いかに船旅を楽しんだか、船旅のほんとうのよさは、制約されない自由な放言だ。船のオーナーが発する自画自賛の宣伝記事でないところが船旅族といわれる全国の船旅マニアに受けることは当然、しかも「ふあんねる」のスタイルはB4判40頁ベタ組。どの頁を開いても、メンバーの手になる船のあらゆるイラストが大うけ。まさに大人の絵本といった感じだ。一冊の経費が何百円もし、郵便料も高い今の世の中で関係各所への無料配布。これでは海賊版が出るのも無理はない。コピー代の高い今、これまた好き者のすることで実に時代離れした分野といわなければならない。

 「ふあんねる」メンバーも創刊当初(1977年)常滑、桑名、瀬戸、東海と、名古屋をとりまく周辺地出身者で、チョンガーも、今はすっかり所帯持ちの中堅働き蜂宣しきグループとなってしまった。5号は家族ぐるみの発刊となるだろうという楽しみが全国の船旅族からあるし、客船会社からは、どんな意見が聞かれるかと別の立場から期待されている。

 メンバーはまた、それぞれ個性あふれるメンメンである。客船に関する資料集めや、コレクションは、まるで紙層屋然として、一般の人では目を通したら捨ててしまうものが、この人達にとっては大切なもの宝ものである。例えば船内食堂のメニュ−は絵入り、日付入り、船名入りで、有名船になると骨とう屋でも一枚ウン万円もするものもある。船影の入った絵はがきはこれまた世界各国のもの。下手な雑誌より美しく分厚で、とうてい専門でないと見られない世界の船内風景のパンフレット等々。そればかりかメンバーは工夫をこらし、船旅はかくあれという乗年記録の写真アルバム造り、スナップの他、乗船券、マッチ、タグ、コースター、乗船しないと手に入らない船内新聞などなど貼り合わせてある。

 メンバー各人それぞれ職業はことなるが趣味としては完全なる合体、中には太平洋沿海フェリーに勤務して趣味と実益を兼ねる人もいる。 さらに、「ふあんねる」は、号と号との間がながいとこの間の連携がとだえがちだが、全国の船旅族にとってそこは心得たもので、気ながに声援を送り待っている。最近号は、同人以外の実録航海記が載りだした。

 何といっても、この同人誌「ふあんねる」の発刊問題は経費のかかることで、ご希望の向きに、ハイドウゾとさし上げるわけにはいかない点である。今のところ、唯こういうユ二−クな同人誌を出している船旅グループが中京名古屋にあるという事を記録するより仕方ない。

(中部の旅 1984年3月号 連載異色の旅グループC)


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