今日は! キャプテン |
司会:
今晩は誠にお忙しいところ,わざわざ我々の為に,貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。今晩ここに集った連中は,いづれも甲乙つけがたい船キチばかりですので,きっと楽しい船旅談議が行なわれると思います。ではお時間も限られておりますので,さっそく本題に入りたいと思います。
司会:
先ずキャプテンが「さんふらわあ7」の船長になるまでの御経歴をお話し下さいませんか。
船長:
私は1945年(終戦の年)に商船大学を卒業して,1951年(昭和26年)に関西汽船に入社し,もっぱら太平洋,インド洋航路の貨物船に乗船していました。それからフェリーの船長をしばらくして,ちょうど海洋博の年に「若潮丸」の船長になり,大阪〜沖繩の航路をピストン航海していました。
司会:
そうすると今まで外洋航路ばかりですか。
船長:
いや別府航路の船長をもちろんやりましたよ。
司会:
では「さんふらわあ7」の船長になられてからどのくらいですか。
船長:
おおよそ2年半位ですか。
司会:
そうしますと,私も本船には2度目の乗船になりますが,あの「長崎クルーズ」が最初の航海であり,キャプテンも最初ですね。
船長:
多分そうゆうことでしょうね。
司会:
次に本船には1月の内何日ぐらい乗られてみえますか。
船長:
そうですね…。2ケ月単位で乗船し,10日間位休んで、それに有給休暇が年間2ケ月ありまして,それ以外は「さんふらわあ7」にずっと乗っていますね。
司会:
じやあ,今は本船の「チーフキャプテン」ですね。
船長:
ええそうなりますかね。
司会:
今度はちょっと硬い話になりますが,日本には船旅を楽しむ人がまだまだ少ないように思われますが,そのへんのところ船長はどうお考えですか。
船長:
そうですね。船旅人口が少ないのは,先ず,何といっても日本の経済的事情が1つあるんじゃないですか。1週間とか2週間といった長期の休暇を取れる人が非常に少ないことが第1番目,それに従来こうしたクルーズ、船自体が日本には少なかったのも大きな原因だと思います。又外国船に乗ろうと思えば,経済的負担も大きくかかってくるし……。それに日本は海国日本といわれておりますが,実際に日本の海運,貨物船,客船がどういうふうに働いているかを知らない人もたくさんいますし,いわんや海外に出て船に乗るチャンスなど,ほんの一握りの人々しかありませんからね。しかし結局は休暇が取れないといった社会情勢でしょうね。
司会:
私も全くそれに同感です。私の会社でも1週間以上休む人は少ないですね。それでは比較的短かい「長崎クルーズ」や「沖縄クルーズ」といったものはどうなんですか。
船長:
やっぱりシーズンの問題でしょうね。、それとしいて付け加えるならば,クルーズ船の楽しみとして,外国が入ればなおいいでしょうね。例えばヨーロッパあたりでは1日もあれば外国に行けますね。日本でも近くに韓国・中国・台湾があるけれど,船で行くにはちょっと魅力がとぼしいと思いますね。
司会:
韓国・台湾では一般的なイメージが悪くて,花のOLには不向きな気がしますね。
大久保:
じゃ,青年の船とか,企業の研習船などの目的で就航させないと採算が合わないということですか。
船長:
自主クルーズ等ばかりやっていたら,経営的には全然なりたたないでしょうね。
司会:
商船三井客船さんの場合には,かなりの補助が政府から出ているみたいですが…
船長:
こんど(新さくら丸の改造)には補助が出ないみたいですよ。だけどあそこも採算面がどうですかね。私は経営のことはよくわからないですが,従来はあの船(にっぽん丸)は,年間2/3位は「青年の船」としての役割を持っていて,あと残りの1/3が自社クルーズのようですから,経営的にはかなり安定しているんだと思います。
司会:
そうしますと,「さんふらわあ7」についての採算はどうなんでしょう。
船長:
まだまだ採算べースに乗っていないですね。年間多少の赤字を出しています。しかし我々はこれだけの船を作って,即く採算べースに乗れるとは考えていません。採算べースに乗れるには,本船が国内に充分知れわたって,3年ほどかかるんじゃないですか。でも本船は幸いなことに,この船は「さんふらわあ7」ですが,フェリーの「さんふらわあ」の名前がすごく浸透しておりますので,フェリーの「さんふらわあ」と感違いして乗って来られる方もちょこちょこいますね。
司会:
確かに「さんふらわあ」のネームバリューはすごいですね。
小出:
私も本船には2度目だと思いますが,昨年の利用状況をお話し下さいませんか。
船長:
やはり旅行社のチャーターが,30%位でして,次に業者の接待旅行が40%,あと残りが地方公共団体ですね。
小出:
お話をうかがいますと,「商船三井」の「にっぽん丸」に比ベ,「青年の船」等の貸切り船が少ないですね。もっと地方公共団体にPRしたら……。」
船長:
そうですね。それもいいアイデアでしょうね。
大久保:
私も小出さんの意見に同感だと思います。とにかく船旅はPRとロコミが大切だから……。
司会:
船長,今年のスケジュールを…。
船長:
今年の企画は夏までは「ポートピア81」のピストン運航です。東京〜神戸の…。自主クルーズもやりたいのですが,今年もちょっとできそうもないですね。
司会:
自主クルーズは長崎が最初で最後になるんですか。ちょっとさみしいです。
船長:
8月に海外クルーズを予定していますし年末にも海外に出る予定です。
小出:
海外といってもどちら方面に……。
船長:
グァム,サイパンそれに中国に3〜4回行く予定になっています。もっぱら東南アジア方面が中心でしょうかね。
司会:
海外クルーズをしますと船酔される方がたくさんでてくるので本船の船酔対策はどんなものでしょう。昨年のグァム島クルーズも相当揺られたというし……。
船長:
確かに体質的に日本人は船酔する人が多い訳だから仕方ないんじゃないかなあ。例えば100人乗って先ほどの「グァム島クルーズ」じゃないですが,30人,40人がもうこんりんざい乗らないと思っても,まだ60人が残りますよ。またそして今度は100人乗せて60人が残り,そういう人が雪だるま式にどんどん増えてくるので,いつかは,船酔しない人が100人乗ってくれますよ。
司会:
やはり船旅はリピーターが増えないとだめですね。
船長:
収益面からもリピーターが増えないとね……。
司会:
とにかく船旅は船酔したらお終いですからね。そういう私も船酔には弱いのだから…。あまり大きなことを言えませんが…。
大久保:
私は初めて「さんふらわあ7」に乗ったんですけど,パブリック・ルームが実にいいですね。天井が低いとか,食堂がちょっとさみしいとか…。その中でもメイプル・ラウンジなんか,かなりお金がかかっているんじゃないですか。
船長:
彼(吉川パーザー)の意見がだいぶ入っているから。それにメイプル・ラウンジばかりでなく,目に見えない所にもお金をかけているんです。
司会:
先ほども言われたようにこれだけの設備の割にはダイニングがちょっとさみしいですね。
船長:
我々もその辺は充分わかっているんだけど,これだけの定員(803名)を取らないと営業的に商売していけないからこれはやむを得ないです。あれをちゃんとしたテーブル式にすれば,収容人員がずっと滅りますから,今本船の定員が800名ですので,ダイニングが4回転しなければならない,それではどうしょうもないし…。
司会:
そうですね。1stシッテング,2ndシッテングまでが限度ですね。3rdシッテングなんてあまり聞いたこともありませんし…。
大久保:
今晩我々はビールを飲みながらレストランで話をしていたんですが,どのラウンジも乗客でいっぱいだと思い込んでいたんですが,いざラウンジに出かけてみると,どのラウンジもがらがらでしたので,大変びっくりしました。これだけの乗客がどこに移動しちゃったのかなあ。私など船に乗れば必ずラウンジに行きますし、ちょっとそのへんが不思議です。
船長:
たしかにまだまだ船旅をほんとうに楽しもうとする人が少ないし,今までこうした船旅をする船もなかったし。まあある程度はしかたないじゃないですか。この船ができるまでは,気軽に乗れる船としては商船三井の「にっぽん丸」1隻だけですからね。
小出:
この「にっぽん丸」にしても新造船じゃなく中古船ですもの。実に海運国日本も客船に関しては後進国ですね。
司会:
今後は日本も長い休暇が取れる時代が必らず来ると思いますので,その時には船旅ももっと盛んになると思いますね。
船長:
一般的に日本人は今まで旅行と言えば旗を立てて「ハイ」いらっしゃい式の旅行が多かったが,これからは船旅など経験されるともっと「創造的な旅」ができるようになると思います。
司会:
もうこれからは農協さん式団体旅行ははやらないようにして欲しいですね。
小出:
私は船長と同業の船会社に勤務しているのですが,今晩の船客の様子を見ていると皆一様に暇そうな顔をして船室にとじこもっているみたいですね。一晩の船旅でも船室から客を引っぱり出すような企画がほしいですね。のど自慢とか映画とか……。
船長:
船内でのイベントにしても,いろんな理由で船側が一方的には決定できない面もありまして,とかくオーガナイザーのいうことが優先するので。自主クルーズの場合には本船で全部できますが。
小出:
では是非自主クルーズの実現をお願いしたいですね。
古川パーサー:
僕も自主クルーズをやりたいのですが……。結局運航会社だから,本音を言うと自主クルーズをやると非常に手間がかかるんですよ。
司会:
そうしますと今年も関西汽船の自主クルーズは期待薄ですね。私など船キチから言わせてもらえれば,自主クルーズの方がずっと楽しいと思いますが…。まあ採算面やその他いろいろむつかしい面もありますので,仲々うまくいきませんね。
古川パーサー:
昨年は残念ながら1度も自主クルーズができませんでした。自主クルーズは営業的にはマイナスですよ。サービスしなければいけないから。
司会:
営業的にマイナスですか?全く残念ですね。これがまだまだ日本の船旅の実体でしょうか。それでは持ち時間も少なくなってまいりましたが,昨年中国への処女航海した時のご様子をお聞かせ下さい。
船長:
中国のどの港の歓迎風景も実に素晴らしくて,小学校,中学校の生徒が鉦,タイコで歓迎してくれましたよ。操船の号令など聞こえないほど…。ほんとうに心からの歓迎という感じですか。
司会:
そういう話を船長からお聞きすると私など船キチはすぐその気になってしまいますから,恐いですね。
大久保:
中国へは今は「OSK」しか配船権がないんじゃないですか。
船長:
いや今年の4月1日からは8社が中国への配船権を持ちました。
司会:
そうすると今後は各社が中国クルーズを企画できるわけですね。
船長:
ただ配船権があるだけで,営業的に成りたたなければちょっと無理ですね。恐らく旅行社で募集してもそれほど集客できますか。今の中国は何もかも割高ですので,たとえ旅行社で集めても赤字になるんじゃないですか。
司会:
そういえば昨年の中国旅行社の「中国クルーズ」も仲々客が集まらなくて苦労していたようですね。
小出:
たとえ中国に配船権を持っていても入港できる港は限定されるんでしょうね。
船長:
大体5つの港ですか。大連,青島それに広東…あと2港ぐらいでしょうか。私はこの前,揚子江に行ってきたんですが,揚子江なども船の大きさからいけば,充分航海できるのですが……。いろいろ今の中国には政治的な問題もありまして,仲々実現まではむつかしいようです。貨物船などは揚子江を上っているみたいです。
司会:
船長は何度か中国の港を訪ずれたと思いますが,どの港が一番印象に残りましたか。
船長:
どの港も魅力のあるところですが,残念ながら現在の中国は建設中のもので,あまり見るところはないですね。過去の遺産ばかりですね。
司会:
確かに歴史の古い国ですから,古い昔の物はたくさん残っていると思いますね。
では平田船長!今晩ここに「船旅さん今日は」の著者である小島さんが来ておられるので,私から小島さんにバトンを渡すことにしましょう。
小島:
平田キャプテンは「にっぽん丸」の弓場キャプテンとは,どういうご関係ですか。
船長:
彼は私の学校の2年先輩です。
小島:
キャプテンが本船が就航される前に,「にっぽん丸」に乗っていろいろ勉強されたということですが,その時のご感想は…?
船長:
私は以前にこうしたクルーザーは乗ったことがなかったので,東京〜高知〜横浜と乗ってまいりました。その時はたしか弓場さんは休みで乗っておられず,有馬さんが船長でした。
司会:
その時商船三井客船の船客サービスを勉強されたのですね。ダイニングサービスとかその他いろいろと…。
船長:
そうですね。
小島:
では現在本船でやられているのは,キャプテンの企画で行なわれていますか。
船長:
この船のサービスのやり方は,大すじは関西汽船のやりかたですね。
小島:
そうしたらそういう本船の船客等のサービスの企画は吉川パーサーがやられているのですね。
古川パーサー:
私はこうした船で一番心配することは乗った方の口コミですね。関西汽船の場合は船のサービスの善し悪しは,それを受ける側のお客様が決めることで…。我社はそもそも客船の会社ですから…。そのへんはこころ得ています。
司会:
関西汽船は別府航路を筆頭に伝統ある船会社ですので,そのへんはしっかりしていると私も思います。
古川パーサー:
ただお客様は1人1人船を見る尺度が違いますから,我々がお客様に望むのは,客観的に船を見てもらいたいということですね。例えば「本船とロイヤルバイキング」と比較されてもらっても,これはちょっと無理な話しですよ。
司会:
それはそうですね。船に対する金のかけ方も用途も違うのですから。では,まだまだ中国での本船の思い出話しや船旅のことやら,お聞きしたいことはまだ山ほどありますが,そろそろ時間もだいぶ過ちましたので,この話の続きは,次回の機会にしたいと思います。
今日は平田船長,古川パーサー,長い時間,我々船キチの為に貴重なお話しや,楽しい船旅話をして項きまして本当にありがとうございました。今後ともどんどん素晴しい船旅を企画して項くとともに,平田船長,古川パーサーの御活躍を期待しております。
このインタビューは,名古屋〜神戸間の「さんふらわあ7」の船上にて収録したものです。紙面の関係で一部省略させて項きました。