よみがえれユナイテッドステーツ号
漆島 隆志朗

 最近のニュースとして,ユナイテッド・ステーツの復活の話は,我々客船ファンにとっては,フランス号(現ノルウェー)と同様,大朗報であったのだが,これも今だに改装工事すら着手されておらず,どうやら挫折しそうなのが残念である。ユナイテッド・ステーツ・クルージズ社はすでに転売先を物色中との事だが,変な所に転売されて,最初のクルーズで失敗した,かっての僚友アメリカ(現イタリス,係船中)の二の舞だけは絶対に踏んでもらいたくないものだ。
 この船は何と言っても“栄光の客船”である。当時すでに飛行機の時代に入っていたとは言え,北大西洋の不滅のブルーリボン記録を打ち立てたという事は,米国として大いに誇るべき事である。それゆえ,いいかげんに終らせてはならないと思うのは決して私1人ではあるまい。

 ユナイテッド・ステーツ・クルージズ社が,そのまま運営しても,又他の米国の新興会社等が買収しても,結局は失敗に終りそうな気がしてならない。この船が他国の船となる事も,どうもふさわしくない。出来る事なら,APLの所有になる事が最も希ましい。何と言っても同社の船客サービスは昔から定評のあるところだったし,なまじっか,初めて客船業務を行う会社のものになるより,どれだけ良いかわからない。
 現在同社は客船業務をやめ,貨物船,コンテナ船等で客扱いをしているが,同じ様に客扱いをしている他社とくらべて,はるかに好評の様である。私も是非一度乗船したいと思って申込んでいるのだが,いまだに目的を果せないでいる。まあそちらの方で好評を得るのも良いが,やはり何としても客船業務を再開してもらいたいものである。かってのプレジデント・ウイルソンやクリーヴランドに乗りそこなった事は今でも残念でたまらない。
 さて,そのAPLには1958年頃にP・ワシントンという45,000トンの巨大豪華客船を作る計画があったのだが,議会でその予算を認められなかった。そしてその後もワシントンを名乗るほどの船は客船にも,貨物船にも出ていない。無論それ以前にもなかった。しかし今こそ,その時期が到来したと言えよう。この船を買収する事によって,すなわち,ユナイテッド・ステーツから初代大統領ワシントンの誕生?となれば増々持って深い縁あっての事と思えて来る。確かにAPLとしても最初からP・ワシントンとして建造出来たかったという事に対しては若干の心残りがあるかも知れない。だが“不滅のブルーリボン記録保持”という,またとない勲章があり,船自体の大きさからしてもワシントンを名乗らせるにこれ以上ふさわしい船はない。現在APLは貨物船,コンテナ船を多数所有しており,歴代大統領の名がほとんど使われている。最近でもPFELのコンテナ船を買収し,P・グラント,タイラー,フーヴァーとして登場させており,再々又建造の予定もあるという。うっかりすると大統領の名前の方が不足しそうである。
 そんな中で,P・ワシントンの名は大事にしまい込まれている。それゆえただ一隻の客船にワシントンを襲名させるのも大いに良いではないか。考えて見ればAPLは今までにもP・ウイルソン,クリーヴランド,ルーズヴェルト,フーヴァー等,確かに人気のある客船は持っていたのだが,本当の意味でのフラッグ・シップと言うか,スーパー・スターを欠いていた。(一応クリーヴランドをフラッグ・シップとしていたが)であるから,何としてもこの問題に終止符を打たせたい。

 ユナイテッド・ステーツの特色は何と言ってもその外観にある。その巨大な2本の煙突が非常にユニークで良いと思うのだが,APLの鷲のマークを生かすには,後方に傾斜している点が少々気になる。同じ様な大きさで直立型のものにしても良いと思うのだが,この点は専門家でもないかぎり断言は出来ない。一方インテリアの方は特に不燃性を強調し軽金属,アルミニュームが家具及びその他の装飾品に使用された。したがって軍艦の様な感覚があり,かっての北大西洋の豪華船,ノルマンディ,クイーン姉妹,ブレーメン,レックス等とくらべれば残念ながら豪華とは言えない。しかしそれも現代の客船らしく機能的でもありながら,尚古き良き時代の重厚味を充分生かした装飾に仕立て直す事は可能である。
 かっての太平洋航路に再び鷲のマークの巨大な客船が走る。P・ウイルソン等と同じ航路だが,無論それだけでなく,ハワイ諸島,カリブ海,時には世界一周のクルーズにも出る。そうなればQE2,ロッテルダム等にも劣らぬ人気が出るだろう。P・ワシントンの出現を期待しようではないか。決して夢ではないはずだ。

(ユナイテッド・ステーツ号のプロフィール)
ユナイテッド・ステーツ 50924総トン
ユナイテッド・ステーツラインズが建造した米国最大,かつ世界最高速の客船,ニューヨーク〜サウサンプトン間の処女航海で,東航3日10時間40分(平均速力35.59ノット),西航3日12時間12分(平均速力34.51ノット)を記録して,北大西洋航路のブルーリボン・ホルダーとなり,現在もその地位を確保している。又本船の最高出力は24万馬力,最高速力42ノット,航続距離は1万哩とのことで,このような高性能が示すとおり,本船は有時の際に直ちに高速輸送船の役割を果たしうるようになっている。しかし残念ながら本船は1969年から係船中である。(客船昔と今)より


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