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海の日のつどい
「活躍してます海のパイロット」
(2019/7/20)

名古屋港ポートビルで開催された「海の日のつどい」に参加しました。参加者31名でした。

今回のメインは、伊勢三河湾水先人 増島忠弘さんの講演「活躍してます海のパイロット」です。
増島さんは2012年にパイロットになり昨年嚮導1000隻を達成しました。その間無事故、無違反です。近年制度が改訂され、船長経験がなくてもパイロットになれるようになりましたが、増島さんは外航船船長8年の経験がある、私のイメージ通りのパイロットさんです。

■「活躍してます海のパイロット」 伊勢三河湾水先人 増島忠弘

◇パイロットの業務

伊勢三河湾のパイロットの典型的な一日は、知多半島の先端にある師崎港からパイロットボートに乗船(03:00)、名古屋港へ入港船を嚮導(04:00~07:00)、名古屋港からの出港船を嚮導(16:00~19:00)、伊良湖岬沖からパイロットボートで師崎に戻る(20:00)。

パイロットにとって最も危険な瞬間は外海での本船への乗り移りです。伊勢三河湾は波や風の影響を受けやすい伊良湖岬の外側でパイロットボートから本船へ乗り移らなければならないので、他の水先人会より条件は厳しいです。伊勢三河湾水先人会には女性パイロットが1人いますが、過去にはパイロットボートからの乗り移りに堪えられず、実習段階でパイロットを断念した女性もいました。腕力に劣る女性にとっては厳しい職場です。

本船に乗り移る際の唯一の頼りはパイロットラダー。段差の間隔や、踏み板の寸法・材質・厚みは国際規格で決まっています。パイロットラダーに飛び移った瞬間に、波で上昇したパイロットボートに突き上げられるのが最も危険な状態です。残念ながら年に2~3名が落水し、過去には死亡者も出ています。

嚮導する船については乗船前に予習して臨みますが、ブリッジでキャプテンと挨拶した後の僅かな時間で乗組員の熟練度や指揮系統を含むブリッジ内の雰囲気を掴むことも重要です。
大型船は動きが鈍いので、かなり先の状況を予測して操船する必要があり、風や波の状況を常に意識する必要があります。最近の船はブリッジのウィングまで壁に囲まれていて、風を感じて操船できない構造なので良くありません。また大型客船はタグボート並みの強力なスラスターを備えていて、尚且つ自動化が進んでいて操縦性が向上していますが、けっして過信することなく慎重な操船が必要です。

岸壁の着岸位置は国際信号旗のN旗で示されています。N旗の位置に本船のブリッジをぴったり一致させなければなりません。全長300m以上のコンテナ船を50cm以内の精度で着岸させます。LNG船の場合はパイプを接続する関係からさらに精度が厳しく、限りなく0cmに近い精度で着岸させます。

ブリッジを去る際キャプテンから掛けられる「Good Job」や「Excellent」の言葉が一番の励みです。

◇増島さんの人となり

増島さんは講演する際にも準備万端です。
「海の日のつどい」には頭の上から爪先まで嚮導時の服装で来ていただき、自分の服装を示しながらパイロット業務を紹介してもらいました。
参加者への配布資料も完璧です。おまけに配布資料の一部が抽選券になっていて、当選者へのプレゼントも用意していてサービス精神旺盛です。
増島さんが外国航路の船長時代には、給料の配布など事務的な行事にも遊び心を取り入れ、イベント化して乗組員を楽しませたとのこと。その一旦が伺える抽選会でした。

増島さんはネットの世界でも活躍されています。
Marine TrafficのAISを用いた位置情報サービスには、増島さんからの提供情報が使われています。
YouTubeの動画「パイロット登る」シリーズは、増島さんが伊勢湾・三河湾を嚮導中のブリッジの光景で臨場感があります。


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